別に“放置プレイ”やらの趣味があるわけでもないのだが、どうも本質的に私はこまめではないのである。SNSで頻繁にやり取りをしている輩をみると、ただただ疲れるばかりで、自分はモニターを眺めるよりは庭先のメジロの鳴き声や姿を肴に一杯やっていたいほうである。
それもこれも余生幾ばかりかの、部分的に認知がかなり進んできたお袋との濃密な時間の中で、人生の、ある時間の過ごし方について、悔いのないようにという思いが強くなってきたからかもしれない。
あれやこれやにかまけて、本来ならば今年2号目の準備をしていなければならない時期であるが、いまだ原稿を上にしたり下にしたり、左にしたり右にしたりして、なかなか捗らない。
何度もお電話を頂戴した読者の方々には誠に申し訳ありませんが、次号がお手元に届くまであとしばらくお待ちくださいませ。
「そんな土方仕事にうつつを抜かしているから…!」という叱責に似た苦情も耳に聞こえてきそうだが、冬は隙間風に悩まされ、夏は強い西日に朦朧とした目下の手狭な仕事場から抜け出し、より良い編集作業に没頭するための涙の準備期間とご理解頂ければ幸いです。
そしてなによりも、ヨチヨチとした足取りでボロ納屋に顔をだし、朦朧とした頭で「いつできるんかいのう?」と訊ねるお袋の時間を優先させて頂きたいと、切に願うわけであります。

昨秋、そろそろまともな仕事場を造ろうと、リフォーム予定のボロ納屋の屋根裏を恐る恐る覗いてみると、砂状に劣化した葺き土が野地板から漏れ出し、梁に堆積した状態…。暗澹たる気分に打ちひしがれた

おまけに、かなりの雨漏り箇所が見つかり思わず絶句…。傷んだ瓦を葺き替える金などあるわけもなく、やけっぱちでズレた瓦を詰め上げてみると奇跡的に雨漏りが収まった!

汗と埃と金欠で涙まみれになりながら天井を落とし、傷んだ壁板や床を剥いで行く。スコットランド在住の某元パイロットが来日の折に手伝ってくれる手筈であったが、椎間板ヘルニアを発症し、役立たず…

柱も微妙に傾き、再生には大きな不安もあったが、梁を磨き渋墨を塗り、葦簀を張ってみると、なんとなくエエ雰囲気を醸し出してきたではないか…!

こうなると俄然、土方仕事にも熱が入る。付き合い始めたばかりの伏し目がちの女が、その顔を上げてみると絶世の美女であったことに気づいたようなものである。この時期、肝心の編集作業などそっちのけで私は女に、いや土方仕事にのめりこんでしまった…

地震に備え、気安めの筋交柱を入れ、大引、根太、床束を入れてみると、なにやら著名な数寄者が設計した和の趣が漂い始めた…

そしてこの時期、律儀に、いや縁先のママレードにつられて訪れるメジロちゃんの、その愛くるしい仕草に癒される…

そして今、やっとここまで辿り着いた。手前の通り土間にミラノ風の石畳か、淡路産の敷瓦でも入れれば絶世の美女になることは間違いないものの、そんな金などあるわけもなく、ふがいない自分にうなだれるばかりである…